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シリーズⅠ/柳田国男を尋ねる⑥ 学生時代からの旧友 井上二朗宛ての柳田書簡が発見される!

1月24日、『朝日新聞』千葉版に、「柳田国男の手紙 我孫子で発見」の見出しの記事が載りました。

それは、我孫子市布佐の旧家、井上家の文書整理をしている我孫子市史研究センター
我孫子の文化を守る会の市民グループの方達が見つけた手紙で、柳田国男が、東京帝国大学時代の友人で、井上家第十二代当主の井上二朗に宛てた手紙でした。
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手紙といっても、投函されたものではなく、当時、栃木県に土木技師として赴任していた井上に、日光輪王寺の照尊院住職菅原英信から頼まれた工事のお願いの紹介状で、菅原に持参させたものとのことでした。

その記事は、「若い頃の二人の交流を裏付ける貴重な資料」で、大水で崩れた大谷川の堤防や道路の修復が必要との話を住職から聞き、柳田が井上に取り次いだものとの守る会会長の藤井吉彌さんの談話を紹介していました。

そして、「手紙の最後には「八月四日」とあるが、年代は不明だ。」と終わっていました。Exif_JPEG_PICTURE

その記事を、千葉在住の柳田全集編集者、山本さんから見せられ、「住職菅原英信」から、輪王寺照尊院とすぐに察しがつきました。

柳田は、学生時代から、花袋と一緒に照尊院に泊まっていますので、私の作成中の年譜で、「照尊院」を探してみますと、これは、明治三十六年の八月のことだとわかりました。

7月23日に、花袋宛に照尊院から葉書を出しているのです。

この時、柳田は、柳田家に養子に入り、次の年に孝と結婚することになっていました。

牛込加賀町の柳田家は、この夏、新婚の二人のために、増築の工事をし、避暑を兼ねて家族「大勢」で滞在していたのです。

井上は、柳田・・いや、学生時代ですから、松岡国男・・の学友で、それも、国男の長兄鼎の住む、

国男にとっては「第二の故郷」でもある布佐出身の友人であったわけです。

正確には、二郎は、本名、横瀬で養子に入り、すでに学生時代に井上家の娘「政」と結婚していました。

今回のことがあり、改めて調べてみると、東京帝国大学卒業生名簿にも、「土木工学科」に名前があり、あの有名な竹内神社の旅順陥落を祝った桜五百本の植樹の記念碑建立の七人のうちのひとりであることもわかりました。

手賀沼干拓や、疎水事業の井上二郎と柳田国男との関係は、知りませんでした。

ということで、3月5日、雨が強く降っているなか、布佐の井上家に、山本さんと行ってきました。

市史研究センター事務局長の岡本和男さん、守る会会長の藤井吉彌さん、井上家の奥様で、相島芸術文化村を運営するNPO法人相島の理事長の千鶴子さん、そして、理事の井上賢さんにお世話になりました。

最初に、私から、はっきりと年代がわかり、結婚前に柳田家の家族みんなで避暑かたがた、増改築工事の自宅から逃れてきている様子がわかり、なおかつ、自分の友人のネットワークをつかって、昔からお世話になっている菅原住職のためにひと肌ぬごうとする若き少壮官僚柳田の息づかいが聞こえてくるような資料と説明させていただきました。

私が持参した、卒業生名簿のコピーを、奥さまに喜んでいただけてよかったです。

柳田に関心をもち、布佐を訪れる人は多いですが、ほとんどの人は、松岡家・岡田武松旧家・勝蔵院・竹内神社を見て、鼎が造った栄橋を渡り布川に向かい、南口の井上家に立ち寄る方はいなかったでしょう。

井上家に伝えられている話として、国男が鼎のもとに「帰省」するたびに、井上家を訪れ、土蔵のなかでよく二人で本を読んでいたという話を千鶴子さんからお聞きしました。

この手紙にも、「母君及内政殿によろしく」という文面もあり、同じ郷里出身として家族ぐるみのつき合いでもあったのでしょう。

岡田武松、井上二郎、松岡国男 小さな布佐の町からでた「三傑」。

小説にでもなりそうな関係です。

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井上 二郎

文書の整理もまだまだ続き、なおかつ、岡田家資料や、我孫子に住んだ杉村楚人冠資料など、

これからもおもしろい資料が見つかる可能性が大で、今後ともよろしくとお願いしてあとにしました。

それにしても、お話していてびっくりしたのは、事務局長の岡本さん、前回のこのシリーズで登場していただいた柴田巌さんと同級生ということでした。

世の中、狭いものです。

狭いと言えば、昔からお付き合いさせていただいている 柴田弘武さんもこのグループのメンバーで、今回はお会いできませんでしたが、こちらも奇遇です。

この手紙、『柳田国男全集』の書簡集(あと三巻、四冊目となります)に収録させていただくお願いをしてきました。

百年以上前の手紙がこうして残っているのです。

まだまだ埋もれていそうです。

お持ちの方、ぜひ、筑摩書房までご連絡ください。